なんでもない日々。

日々の思いや気づきなどを雑多に書きます。

ゼリーとHonesty

雨がやっと止んだ。

今日は一日、患者さんたちと窓の外の降り止まない雨を眺めては憂いていた。「ようさん降るなぁ。心配や」。患者さんたちは長い人生の中で水害の恐ろしさをたくさん知ってきているから余計に気になるのだと思う。今頃、雨音がしなくなってホッとしてたならいいのだけど。

ハヤカワさんという患者さんがいる。脳梗塞の後遺症で重度の失語症があってほとんど話すことの難しい人。うちの病院に転院してきてからは不穏がすごくて、看護師さんが口の中を拭き取ろうとしたり痰を吸引しようとしたりしようもんならものすごい力で抵抗し暴れる。やむなく二人がかりで押さえつけるしかないような状態もあったりして…。

ハヤカワさんは言葉は話せないもののこちらが言ってることの内容は少し理解できている。検査して調べたわけじゃないけど普段のやりとりでそれがわかる。でも話すことの訓練は精神的に負荷が強いみたいでとても嫌そうにされる。だからそれはしない。

もちろん、系統的な訓練をバリバリ進めていく専門病院も世の中にはちゃんと存在していて、私が最初に勤めた病院はどちらかと言うとその手の病院だった。でも今いる病院はそうではないから…。

患者さんたちが少しでも日々を安楽に過ごせるように、何か楽しみになるようなことを探してそれを提供する。それが今の私の仕事だと思っている。

ハヤカワさんは甘いものがどうも好きらしい。それに気づいてからはいろんな味のゼリーを毎日一個ずつ食べてもらっている。嚥下障害(食べたり飲んだりする力が低下した状態)もあるから、誤嚥が起こらないように気をつけつつ。ハヤカワさんは一口、また一口と味わうように時間をかけてゆっくりと食べる。そのときの表情はいつもほんのりと笑顔で、それにホッとする。

今日もまたハヤカワさんのところへゼリーを持って向かっていたら廊下で病棟の看護主任さんから声を掛けられた。

「なぁなぁ、ハヤカワさんてさ、最近めちゃくちゃ穏やかになったと思わへん?」。主任さんのその言葉に、「たしかに言われてみればそうですね!あんまり怒らなくなりましたね」と返したら、「そやねん!nareさん(私の名前)がみてる患者さんたちはみんな穏やかになるからどんなふうにしてるんかなと思って」と聞かれた。

え、いや、私のせいじゃないと思いますよと言ったんだけど、主任さんは依然、私のハヤカワさんへの対応に興味津々という感じで…。でも実際にこれといった特別なことはしてないから返事に困ってしまい、なんでですかねぇ、不思議ですねぇと言葉を濁し、曖昧に笑ってはなんとかその場をしのいだのだった。

今こうして振り返ってみても特別なことは本当にしていないと思う。ニコニコしながら挨拶をして、他愛のない話をしつつ患者さんの表情や雰囲気を感じ取る。あえて言うなら、そのときの患者さんの気配や空気感に自分の波長を合わせるみたいな感じはあるかもしれないけど。自分のテンションや感情が前面に出ないようにして、患者さんの醸し出してるものに自然と添わせていくみたいな。

でもそれってどうやってしてるの?と聞かれたなら上手く答えられない。とにかく感じ取って合わせるんですとしか。。

まぁ、そこはひとまず置いとくとして。

何はともあれハヤカワさんが穏やかに過ごせているのは良かったし、主任さんが言ってくれた言葉も素直にとても嬉しかった。

 

そんな一日の話。

 

さっきふいにこの曲を聴きたくなって聴いていた。

Billy JoelのHonesty

この曲はHonesty(誠実さ)をyou(あなた)の中に求めているけれど、何よりも大事なのは自分が自分の良心を裏切らないこと、自分の心に嘘をつかないことな気がする。